仙台高等裁判所 昭和26年(う)233号 判決
先ず職権を以て調査するに、原判決はその事実摘示として本件の被害者木村テルは被告人の判示各暴行によりその右李肋部右腰部に治療一週間を要する挫傷を負わしめられたものである旨判示している。而して原判決挙示の証拠の標目を記録に照し合せて見ると右傷害の部位、程度等に関する証拠は原審に於ける受命裁判官の証人木村テルに対する尋問調書と医師西村真一の作成した木村テルに対する診断書との二つだけで他の各証拠はこの点に関する直接の証拠ではないから、原審はこの二つの証拠によつて右の事実を肯定したものと解せられるのであるが、前記西村真一の診断書に依ればその病名欄には判示に副うような病名の記載はあるが、その摘要欄には「右症により向後約一週間の安静加療を要す」と記載してあつて同診断書の作成日附が昭和二十五年九月六日である点から考察すると同日以降約一週間の加療を要する傷害であるという趣旨であることが明かであり、本件犯行時の昭和二十五年八月二十九日から一週間の治療を要する挫傷と認定した前記原判示事実と相違することは勿論、同診断書中にはその原因等につき何等記載なく、一方前記木村テルの供述調書中には単に「傷は右あばらが一番痛く感じた、翌二十九日(犯行当日)村の医師(東野貫一郎)の診療を受けたときは痛くなく、医師に話さなかつたが、だんだんに痛くなつた」旨の記載があるだけで、それ以上に本件傷害の部位程度についての記載も、又その傷害について前記西村医師の診療を受けた旨の記載もない。それ故、右西村医師の診断した診断書記載の傷害が果して被告人の暴行による傷害そのものを診断したものであるか(若し判示の如く一週間程度の傷害であつたとすれば診断書作成当時は既に全快していたものといわなければならない)全く不明で、之を以て本件傷害の事実認定資料とはなし難く、又木村テルの供述調書によつても同人の受けた本件傷害が原判示の如き部位程度のものであつたことは之を認めることが出来ない。要するに、原判決挙示の証拠からは木村テルの蒙つた傷害が判示の如くであるとの事実は遂に之を認むるに由なく、原判決は既に此の点に於て理由にくいちがいあり、破棄を免れないものといわなければならない。